ああ 2023/12/10 13:40 iOS17.1.2 No.3089756 幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに俺を育ててくれた。学もなく、技術もなかった 母は、個人商店の手伝いみたいな仕事で生計を立てていた。それでも当時住んでいた 土地は、まだ人情が残っていたので、何とか母子二人で質素に暮らしていけた。 娯楽をする余裕なんてなく、日曜日は母の手作りの弁当を持って、近所の河原とかに遊びに行っていた。給料をもらった次の日曜日には、クリームパンを買ってくれた。 ある日、母が勤め先からjリーグのチケットを2枚もらってきた。俺は生まれて初めての レッズ観戦に興奮し、母はいつもより少しだけ豪華な弁当を作ってくれた。 埼スタに着き、チケットを見せて入ろうとすると、係員に止められた。母がもらったのは 招待券ではなく優待券だった。チケット売り場で一人1000円ずつ払ってチケットを買わ なければいけないと言われ、帰りの電車賃くらいしか持っていなかった俺たちは、外の ベンチで弁当を食べて帰った。電車の中で無言の母に「楽しかったよ」と言ったら、 母は「母ちゃん、バカでごめんね」と言って涙を少しこぼした。 俺は母につらい思いをさせた貧乏と無学がとことん嫌になって、一生懸命に勉強した。 新聞奨学生として大学まで進み、いっぱしの社会人になった。結婚もして、母に孫を見せて やることもできた。 そんな母が去年の暮れに亡くなった。死ぬ前に一度だけ目を覚まし、思い出したように 「あの時ごめんね」と言った。俺は「楽しかったよ」と言おうとしたが、最後まで声にならなかった。