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思い切った決断である。石井前監督は昨シーズン、チームをリーグ年間王者に導き、クラブワールドカップでは準優勝、さらには天皇杯も制した。それら素晴らしい実績ばかりでなく、選手時代も含め、約25年間を鹿島に費やした功労者でもある。それだけに、今回の契約解除は衝撃的かつ非情なものと捉えることもできる。
だが、果たしてそうだろうか。今シーズン、前監督とそのチームはアジアの頂点に立つことを大きな目標に掲げ、厳しい日程を覚悟の上で戦ってきた。しかし、リーグでは下位に取りこぼすなど、12戦で5敗を喫してしまった。問題はその敗戦全てがホームゲームであるということだ。圧倒的に有利であるはずのホームで勝てないというのは、個々の試合の要因以上に、チームが継続的な欠陥を抱えており、その改善がままならない状況を示している。
負傷者が相次いだという事情はあったにせよ、リーグで2連敗して迎えたACLで敗退。ここで手を打っとかなければ、ひとつの大きな目標を失ったチームは、さらなる落ち込みを喫してしまうリスクがある。指揮官の交代は劇薬かもしれないが、処方しないで治癒を目指すのはむしろ回復が遅れるというクラブの判断は十分に理解できる。
「リーグに全力を尽くすべくタイミングで功労者である前監督を替えるなんて」という意見もあろうが、むしろそうだからこそのタイミングであり、功労者だからこそのインパクトを持ってチームに危機感を浸透させることができる。
さらに穿(うが)った見方をするなら、功労者だけにズルズルと決断を先延ばしてその栄誉にネガティブな印象を付属させるべきではない、と考えたのかもしれない。休養から辞任という形にしなかったのも、金銭面での配慮、前監督の指導者としての今後への(他クラブでの活躍も視野に入れた)バックアップだとすれば合点もいく。
大岩新監督には相当なプレッシャーであることは間違いないが、彼もチームやクラブのスピリットを知る人物であり、前監督と喜びや苦悩を共有してきたことも財産であろう。
様々な意見があるが、私は今回の監督交代劇に鹿島アントラーズの口先だけではない「常勝」への想いを感じた。果たして、新監督はどんな手法で立ち直らせるのか。また、この危機に選手がどう立ち上がるのか。大いに注目する。(山内雄司=スポーツライター)