No.260305
8月9日。オファーの存在を報じられ、移籍の可能性を取り沙汰される中で迎えたアウェイゲーム。今夏の試合で一、二を争うほどの過酷な暑さに見舞われた神戸の夜、アントラーズはビハインドを負った。後半開始早々、痛恨の失点。劣勢を強いられる中、背番号33が意地と矜持を示してみせた。ゴールネットを2度揺らし、逆転勝利の立役者に。激闘を終え、興奮と余韻が残るミックスゾーンに姿を見せると、一言つぶやいた。「今日はしゃべらないとね」。報道陣を笑わせつつ、胸中に去来する思いを打ち明けていく。鹿のエンブレムを胸に、これからも歩みを進める――。強固な決意が、その表情に滲み出ていた。
神戸戦の勝利で、アントラーズは首位の座を奪い取った。4日後の等々力では屈辱と向き合うこととなったが、8月19日の第23節から4連勝。その中心で、背番号33が燦然たる輝きを放っている。再出発を期した清水戦で1ゴール1アシストを記録すると、首位攻防のC大阪戦では渾身のクロスボールでレアンドロの決勝弾を演出。勝利への渇望を燃料に変え、己の身体を擦り減らすがごとく走り続けたその先で、ついにたどり着いた瞬間だった。ゴールネットが揺れる様子を見届け、静かに立ち上がる。プロフェッショナルとして、任務を遂行したエースの姿がそこにはあった。
9月に入っても、その勢いは止まらない。緊迫のウノゼロ、大宮戦での決勝弾。そして新潟戦、逆転劇の興奮を勝利への確信に変えたPKでの一撃。「チーム全員で戦う」という言葉の最前線に立って、金崎はアントラーズを牽引し続けている。指揮官は言う。「彼は背中でチームを引っ張る選手だ」と。
それでいて、殊勲の試合後でも「今日は他の選手に聞いてあげて」と茶目っ気たっぷりの笑顔とともに報道陣をかわすことがある。試合前日のレクリエーションゲームで、クラブハウスに響き渡る大声、いや奇声を発することもある。“弟分”とも言える鈴木を笑ってからかったかと思えば、気の緩みが見えた時には厳しく叱責することもある。「わからないこともたくさんあるよ」と大岩監督は笑うが、幾多もの表情を持つキャラクターもまた、周囲を惹きつけてやまない。
「アントラーズに残ってくれたということは、それだけ彼がクラブのことを思ってくれたことの裏返しでもあるだろうし、嬉しい。もっともっとやってもらわないと困る。残ったからには、チームをグイグイ引っ張って欲しい」
全幅の信頼を寄せるからこそ、指揮官は要求を高める。エースとして、そしてチームリーダーとして。「士気が上がるタイミングで、選手に響くことを言ってくれる。そういう言葉にはパワーがあるんです」。選手時代の経験に照らしながら、大岩監督はその影響力の大きさを語っていた。
「優勝に向かって勝ち点を積み上げられるよう、自分らしくゴールを狙っていこうと思います」。勝利だけを目指し、背番号33は走り続ける。その気迫で、その背中で、チームを力強く前進させる。アントラーズのエース、金崎夢生。今夜も、聖地に夢を生むゴールを。