702531☆ああ 2021/03/24 11:39 (Chrome)
大きい風車がグルグルと回っている。少し肌寒い風が身体を通り抜けていく。季節は春。暖かな日差しが差す浜辺に一人の男が佇む。潮の香りがするな、と思いながら浅瀬から駐車場にある車に戻り、別の場所へと向かう。右手側にある公営墓地の駐車場に車を停めると、男は降りて一人墓地の一角の前に向かう。
「久しぶりだな・・・またこの季節に来たよ。」
男は呟くと、手に提げている袋から花を線香を取り出した。花を水差しに指し、線香2本にライターで火を付け香炉に置いた。「懐かしいな、今でもここに来れば当時を思い出す。」
目を細めながら男は呟く。
「大好きだったよな、鹿島アントラーズの試合観戦。一緒に応援してさ、辛い時もあったけ勝った時は嬉しくてさ、二人ではしゃいでたな。楽しかった。・・・一つ嬉しい報告があるんだ。やっと、やっと鹿島がJ1で優勝したよ。」
風がざあ、と吹いた。
「お前がいなくなってから30年、随分経ったな。あの時20歳だった俺も50歳になったよ。」
それは2022年の初春に遡る、当時はあまりに突然のことだった。ある日掛かってきた電話に出た、あいつが亡くなったということを訊いた。嘘のような本当の事。信じられなかった。
「お前のお陰だよ、ずっと言ってたもんな、優勝したいって。」
暖かい日差しとは反対に冷たい風が顔に当たる。ふうっと吹き付けては消えていく。目の前に広がる青空に飛んでいく線香の匂いが鼻をかすめた。